<熱傷(やけど)と後遺症(瘢痕ケロイド、瘢痕拘縮)>
熱傷の種類
熱傷には、炎によるもの、熱湯や熱した油によるもの、蒸気によるもの、爆発によるもの、熱いものとの接触によるもの、輻射熱によるもの、化学薬品によるもの、電気によるもの、雷によるものなどいろいろある。なお、最後の3つはそれぞれ化学損傷、電撃傷、雷撃傷として熱傷と区別されます。
熱傷の深さ
熱傷の深さにはI 度(表皮熱傷、epideamal burn;EB)、II度(真皮熱傷, dermal burn)、 III度(深部熱傷, deep burn; DB)があり、II度では浅いII度a(浅達性II度熱傷, superficial dermal burn;SDB)とII度b(深達性II度熱傷, deep dermal burm ;DDB)があります。
I度熱傷は表皮の深さまでの傷害で、疼痛を伴う発赤程度ですみ、瘢痕を遺さずに治癒します。II度熱傷は真皮の深さまでの傷害があり、浅い場合は浅達性II度であり、発赤や小水疱を生じたのち瘢痕を遺さず治癒するが色素沈着を遺すことがあります。深い場合は深達性II度熱傷であり、通常水疱を生じ瘢痕を遺して治癒します。III度熱傷では傷害は真皮全層におよび、皮膚は壊死し小範囲の場合以外は植皮などを講じないと治癒は遷延し治癒しても肥厚性瘢痕となりやすいです。
皮膚の断面図。
1度熱傷は皮膚のみ、Ⅱ度熱傷は真皮まで、Ⅲ度熱傷は皮下脂肪層までの損傷。浅達性Ⅱ度では、毛の周囲の上皮細胞などから皮膚が再生して瘢痕を遺さない。しかし、深達性Ⅱ度では、上皮細胞が及ばず瘢痕を遺す。
#化学損傷では物質の濃度により傷害深達度が異なりますが、一般に酸よりアルカリの方が深達性になりやすいです。電撃傷は大別すると、スパークやアーク放電による熱傷と、電流自体が体内を通電して傷害を発生する場合があります。通電によって深部組織に障害が及ぶと、血管損傷などが進行し、損傷の深度が徐々に深くなり結果として四肢などを切断することになるので、受傷初期の様相で重傷度を判定することは危険です。なお、高電圧による電撃傷では電流の出入り口が電紋という組織損傷を呈することがあります。
熱傷の重症度
患者の年齢、熱傷の範囲と深さ、気道熱傷の有無などが熱傷の重症度を決定します。一つの指針としては#熱傷指数(Burn Index)があります。これは、III 度熱傷の体表に占める割合とII度熱傷のそれを1/2にした数値との和で表されます。この指数が大きいほど熱傷が重症ということになります。また、同じ指数でも小児や老人ではより重症ということになります。目安として体表の15%以上がII度以上の熱傷を被ったら補液を伴う入院管理が必要ですが、年齢、部位、III度熱傷の占める範囲によっては、それ以下でも入院管理を要する場合があります。
電撃傷では受傷範囲に拘わらず、入院させて診療することが必須です。
高度広範囲熱傷
たとえば体表の30%を超えるような広範囲熱傷では、早期に創面を植皮で被覆し感染や体液の漏出を防ぐことが生命予後を良好にします。広範囲のため自己の皮膚が不足する場合は、一時的にスキンバンクの同種皮膚や人工真皮などの被覆材料を使用することもあります。#培養皮膚は現在のところ、植皮に足りる十分な大きさを得るには時間がかかるので、早期に植皮を要する場合には向きませんし、美容的価値はゼロです。
熱傷の後遺症
1 #肥厚性瘢痕
肥厚性瘢痕は深達性II度熱傷やIII度熱傷を受けた創面が治癒する過程で、線維芽細胞の増生が旺盛となりケロイド様に肥厚化した状態です。瘢痕ケロイドとも言います。通常は受傷後3ヶ月から半年をその増生のピークとしてその後徐々に鎮静化し、結局は白色平坦な成熟瘢痕として落ち着くものですが、部位差や個体差があり、鎮静化に数年を要する場合もあります。肥厚性瘢痕の発生率は、熱傷深度がより深いものがより高率ですが、II度熱傷でも感染を併発したり掻爬などで治癒の遅延があると発生頻度が増します。真性ケロイドの好発部位である緊張や伸縮運動が常にかかる部位では肥厚性瘢痕もまた持続しやすい傾向があります。また、関節部位や顔面頚部で瘢痕拘縮を生じれば肥厚性瘢痕となりやすいです。
2 #瘢痕拘縮
関節可動部位、顔面頚部などでは肥厚性瘢痕の発生によって瘢痕拘縮が生じることがあります。その予防には前述の保存的治療が有効ですが、部位によっては手術的に対応した方がよいでしょう。例えば、頚部の瘢痕拘縮は顔面や胸部の肥厚性瘢痕、瘢痕拘縮を助長するので手術的治療がより効を奏す場合が多いです。あるいは、手背の深達性熱傷は手術時期を誤ると非可逆的拘縮〜変形を来しやすいので注意が必要です。
また、成長期の小児の熱傷では、体の成長に従って手術的治療を行わないと変形や成長障害をきたすことがあり、とくに女児では注意が必要です。
<治療法>
1) 創傷に対する治療
生命にかかわるような広範囲の熱傷(例えば全身の15%以上)では、早期の植皮が全身状態の維持や感染の防御に必要です。また、熱傷創の治癒を遷延化させると創がより深達性となって肥厚性瘢痕を生じやすくなります。また、浅い熱傷創であるにもかかわらず不要なデブリードマンを行うことも同様の結果を招きます。II度熱傷では創感染を来さないように留意しつつ、保存的に創治癒させることが通常ですが、顔面、手背部、関節部やケロイド好発部位であれば植皮によって被覆し肥厚性瘢痕・瘢痕拘縮の発生を予防することが必要です。III度熱傷であれば植皮を行って創治癒を促進すべきです。
水道水洗浄、シャワー洗浄 ステロイド軟膏 プロスタンジン軟膏
アダプティック ハイドロサイト
2)瘢痕形成後の治療
保存的に瘢痕化させたDDBや植皮片の辺縁瘢痕に対する、肥厚性瘢痕を予防する処置としては、外用剤塗布(ヒルドイド軟膏TMなど)、ステロイドテープ(ドレニゾンテープTMなど)の貼布、トラニラスト製剤(リザベンTMなど)の内服、スポンジ(レストンTMなど)やサポーター、装具による圧迫、シリコン被覆材(シカケアTM、FシートTM、ジェルシートTMなど)による圧迫があり、これらを適当に組み合わせることが一般的に行われています。
3)肥厚性瘢痕の治療
一旦肥厚性瘢痕になってしまった局面の処置も前項の場合と全く同様です。ケロイドのような増殖性かつ治療に抵抗するような肥厚性瘢痕には、ステロイド製剤(トリアムシノロンなど)の局所注入療法も有効ですが、かなりの疼痛を伴うこと、中止すると再発する場合があることなどの問題点があります。そこで、手術的治療が適応となる肥厚性瘢痕もあります。方法は、切除単純縫縮、部分的縫縮の繰り返しや組織拡張器(エキスパンダー)による完全切除、切除後遊離植皮、切除後局所皮弁や区域皮弁などの皮弁による修復があります。さらに、術後電子線照射を行ったり、前述の保存的治療を行います。電子線治療は、難治性のケロイド治療において選択されますが、ケロイド様の増殖や保存的治療に抵抗する肥厚性瘢痕でも適用されます。通常、術後翌日から15〜30グレイを3日間分割照射します。但し、照射後の一時的色素沈着や脱毛、発癌リスクの上昇についてのインフォームドコンセントが必要です。
4)瘢痕拘縮を伴う場合の処置
関節可動部位、顔面頚部などでは肥厚性瘢痕の発生によって瘢痕拘縮が生じることがあります。その予防には前述の保存的治療が有効ですが、部位によっては手術的に対応する方がよい場合があります。また、瘢痕拘縮を長期にわたり放置すると、瘢痕潰瘍の形成を繰り返し将来瘢痕癌となったり、関節強直を生じる危険があります。
日常生活でのQOLを考慮すれば、瘢痕拘縮は可及的速やかに手術治療を施した方がよいでしょう。
例えば、頚部の瘢痕拘縮は顔面や胸部の肥厚性瘢痕、瘢痕拘縮を助長するので遊離植皮を原則とする手術的治療がより効を奏す場合が多いです。しかし、顔面から頸部あるいは前胸部にわたるような、広範囲の熱傷瘢痕拘縮では植皮ではのちのち瘢痕拘縮の再発などで多数回の手術が必要になることが多く、植皮後の圧迫固定の徹底や、時に薄い大きな皮弁(超薄皮弁など)を使用すべき場合もあります。また、手背や四肢の深達性熱傷では手術時期を誤ると非可逆的拘縮〜変形を来しやすいので注意が必要であす。
下図:顔面頸部の重症瘢痕拘縮の、血管付き超薄皮弁 による再建例。
参考文献
1.熱傷用語集:日本熱傷学会用語委員会、日本熱傷学会1996
2.小川令、百束比古:ケロイドおよび肥厚性瘢痕の予防と治療法、日医大誌、
1(3):121−128,2005,6
3.Hyakusoku H., Ogawa R.: Subdermal vascular network flaps: The concept of the superthin flap. Perforator flaps, Anatomy, Technique & Clinical Applications. pp 1002−1027, Quality Medical Publishing, Inc. St Louis, Missouri , 2006
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