のこりの50から100までは、次回に掲載予定です。
北岡冬木第四詩集
100連詩ごっこ
(対詩:寒河江光、三行詩限定、1995詩作)
1 寒河江光
見上げると季節の横風に蒼空の神経既に花めく
小宇宙につぼむパルスは言葉によって撃つと描き初めし時のめぐり
「国ははるかによそにあらうつくしい付加価値よこの恋はおもうはなからめくるめく」
2 北岡冬木
はかばか
墓墓、しく帰転の衛船、宇空より緩めき墜るる、汝れ風の民
虚の国より巡りて、何れか地の邦に迎えられむ、佳き時に必ず
もたげる鎌首、麻断のストレス、幾光年も永々なる、あの音階が、また
3 光
音楽、なにをおいてもまず音楽、わたしは
そのピアノの一音一音にこの世界の明析を取り返している。そして
どこからどこへ、かすかに張られた一本の共鳴線上に立っている。
4 光
何をおいても音楽だ。その余のことは文学にすぎない。と歌った詩人に熱い抱擁を贈る。
その流れようとする豊かな追憶をよくぞ残しておいてくれた人にゆっくりと遅れて
おもわず、夕べ湧き立つ垂直の氷のような感謝の言葉がゆらいでゆくのを見送ろう。
5 冬
あらゆる楽器の反響和音には「この世次元」からの逃避者を津波のように襲撃する能力がある宇宙の闇から先祖が一斉に経を唱えながら被さってくるのでもうしませんゆるしてくださいというしかない
やがて輪廻の階梯が歪みアクシスが変換すればばらばらと役者がこぼれて来るこぼれて来る
6 冬
おお逆巻く波波とわが杯に夢夢うつつ仲仲に音音しみじみと想像のとりどり
否否と我に帰り鼓動の千千乱れ今宵も欝欝としじまに魂霊(たまたま)排回すると神神の呼び鼓轟轟
「震動するカメレオンの変態を見てはならない!」色々の魔が魔が背後から洞ら洞ら
7 冬
突然の春!残雪の春越境の春逃亡の春生残の春降伏の春悔苦の春落胆の春
当然の春。諦観の春空無の春舞踏の春銘丁の春歓喜の春陶酔の春自棄の春
半旗の春、偽満の春裏切りの春憤怒の春迎撃の春陵駕の春爛月の春さらば
8 光
千心百観を季の万華鏡とした我らの父祖よ
ボクタチは忘失の川を渡るところです
宇由宙達の単調に克つ身体を僕等の子等にどうぞ与えよ
9 光
男忘れる
女恨む
遊べない子のいる天体は哀しく貧しい
10 光
例え恋多くあったとしても、心の角をつぎつぎに落していってはならない。
孤独を研ぎ澄ますことがますます難しくなってしまうから。
雲丹のような体位の緊張によって大海の潮の流れもよく遊ばれるのだ。
11 冬
抑揚の干満うねり捻(ひね)られ捻(ねじ)れて搖れる数無し光年離れた星への旅程
目的も計画も荒唐無稽一夜にして落ちる桜花の焦りに急かされ出帆
はかなきは生きとし生けること夢見は死後世界反転の星々波の間に間に垣間見て
12 冬
海を返せ、子供たちが未来を見つめるところ、ほかにない。
絶望の泥で埋めるな、コンクリートを建てるな、路を作るな。
未来がなくなったその日から、子供という動物は滅んだ
13 冬
ツルバラの赤い、海へと続く砂の道いつも夏だった、風は濡れて
目を逸して振り返った、誰もが一生に一度しか会えない少女を追う、と記憶は突然翻転して
遠くエストニアを追想する、北欧の湖のような瞳の少女が夢に侵入する、革命の午後(ひるさがり)。
14 光
「ターリン行きの船の出る港はどこですか?」
白夜の船着場でギターを抱えた白痴の男が聞いて回るのは、実は暗号
「ぼくも乗れますか?その船に」と聞き返すと扉を開ける秘密クラブのポンびきで
15 光
いやあ、もだんたいむす外から見たんじゃ分からんもんじゃ
だだいすとたちのそれはもう大騒ぎも意外にお古風な野心の表現主義でねえ
固くなったペニスの如きパンをかじって手も口も耳穴までもジャムだらけ
16 光
初めは街角が本当に角である街がめづらしい。
そこから満月が裏通りを覗くのが観念論の幾何学で、
石畳に散らばったその欠けらの上に靴音立てるのが超越論の解析学。
17 冬
引出だらけのダリの脳みそ頚へと流れる時間の幽体20世紀という名の胴体を満たす
だが詩人よ、おまえの調味料は何をも満たせず塵のざまだ
責めて渦巻け竜巻となり時空を捻って裏返せ
18 冬
たれかおしへてくたさひ、とこのみなとからふねはてるの、たれかおしへてくたさひ、
ほくものれますかそのふねに、たれかつたへてくたさひ、つきのわらふはん、ふねはてる、、
ほくのちちやははに、とふかゆるしてくたさひと、くたさひと。
19 冬
ターリヤン(大連)行きの飛行船に乗れる日を70年も待っていた老人達がいる空港
コクーンの実話が世界には幾つもあるものだ、こどもたちよ
人は必ず生まれた所に還えるのに、人生はメビウスの輪のような裏と表をグルグル回るんだろう、ね
20 光
童夢七紘、一紘残し根、遥雄くん
あさひののぼり、ゆうひのしずむ、うみはひろいかおおきいか
幼悔七変、一変代わりよ、暁雄くん
21 光
花花花、花花花花、花花花、ー千代にー
花化ケタ、化花化ケタ、ヒイヒイヒ、ー八千代にー
はなは、はなはな、はっなっはっ、ー鳴呼ーー、花の定型三変化
22 光
なにをなくしてもいいの。いのちのわかれに。[超老婆超独白inジャパン語]
唯、季を、この季を、春を、そして秋も、それぞれの空と、それぞれの大地を、
この骨肉に、ーこれ?は誰?ー少し筒染み込ませて億事丈はシテ億積もり。如の口邪。
23 冬
偶然の生の果てに、突然眺望した大陸。風に乗って見る前世の蝶観図
何億光年のピンホール攻撃にも等しい、進化の確率に賭けたきちがいたちよ
今祖国は退化しまた羽化する兆しです、片道切符はもう只のコレクションになってしまった
24 冬
一面の中国人一面の中国人一面の中国人一面の中国人一面の中国人
人は生まれ死に生まれ死に生まれ死に生まれ死に生まれまた死ぬ
久遠より国々の輪廻もまた因果に翻弄され蘇生を繰り返す食卓の上で
25 冬
さよなら、ゆめの残骸も掘り出せないから、ゆめのままだ
ゆめにはいつも証拠がない、だからゆめだ
ずっと覚醒しないで、高熱にうなされ乍魔界をさまよっていたかったのに。
26 光
あんたがネゴトでマカイ、マカイっていうの聞いてるよ。
このごろ、あたし夜中に目が醒めてるから。
それでね、ソーカイソーカイ、ソリャホンマカイって聞いてやるんだ。
27 光
集められない女のアドレスを一つ教えてやりたい。
この頃、モノ集めが激しくて、と嘆いていた友に。
人生も下り坂で彼奴もそろそろメトレスにすがりたい。
28 光
夕べの風は墓石の回転ドアを廻って頬に触れ
この頃待ってる人の秋の巽へ音づれてゆく使者の先触れ
どうしてこれは肉を擦る乱交脈の 瑠の眼の震え
29 冬
メラン高原人頭馬車の群れ追い打ちに
あらゆる首領の死をもって制裁となす未来の王国
デスヴァレイに晒された処刑死体は千年後のミイラとり
30 冬
てふてふは革命のお訃げじっくり寄り道して来やがった
無為か有為か知らぬ間、敗残の海峡春めき
巨像は溶け出し小便みたい
31 冬
相反する物共の平均台が一番美しかった人生の中庸
時計が回ればそれも捻れる砂時計のくびれのように
落下する砂を随意に留めてみたいと神を演じる臨死
32 光
淫死・添死・縁死・連死・因果恐ろし頓頓死
それはジャズイーな酔生夢死
溢詩・壊詩・墜詩・尊厳詩・引導渡せ安楽詩
33 光
天井に地球という惑星の地図を貼って世に経る
畳のうえを叩きつける砂嵐、時にスコール、時に銃声、太熱の飢餓はしかし、
絶え間なくこの部屋を充満して生産の堪え難き過剰を蝕んでいる
34 光
動詞に責められ接触の契機は移動の速度を失う、理神
形容詞が豊飾の意匠の眼を剥いで写体が裸形だ、朔日
何物も名指さない名詞となって耳をすます暗闇の構文
35 冬
おお盤石(バンコク)!紅き空の下黄土のメナムに、余命の浮遊を託す神神にひざまずく時の如くあらゆる舟は交錯する、水に月に大地に、巣を焼かれた蟻群のように行き惑うそして還るスコールよ来い突然にしかもすべてを洗い流してしまえ運命も叙情も時間も!
36 冬
コロニアルな午後の惰眠
演劇的でさえある近過去の連綿
配役を交換して茶化す猿の惑星
37 冬
してみれば、はらから、のたれし、ちせひの、もくろみ
あるひは、せつりの、ざひごふ、つみあげ、じけつを、さばかし
かみのな、かたりし、すめらの、つぐなひ、まつりの、みちゆき
38 光
きのふには、てれふみの、朕にゅふにて、あらなんとはなしに、いとをしか
あきれがほの、どくされる、あなあきてん、股きたりしてん、じょげがえろ
へちこびて、こんどろむ、茎けんろうで、すりこばち、ほだらけむとは、いんごふや
39 光
聖戦の川渉る朝
武器いみじくも紛う方なき近代兵器
既に戦いは我に在りと絶対孤立を覚悟せし真夏日
40 光
俺の積分女の最暗黒部よりもまだ黒い俺自身の白日の投影
俺を収束する終えんの正午台地陰圧垂線上のフアック
眼下高熱都市の累乗にどうやってこだまするんだ叫び声口に頬張ったまま
41 冬
悔恨はしじまにゆらめきつつ熱中の夏終る
駅という駅は草叢に息絶えてシイナリーから消滅した
あれから帰還しない列車の走馬燈を捜しにゆこう
42 冬
しろからのはじまり、なにもみえないあさ、ほうもんしゃにかおがない
きみはきえさったきおくを、しろいさらにもって、よくたべるよいこだ
ひかりよこい、にじのすぺくとるで、よくみえるまどをえがけ
43 冬
カンニバリズムの秋がきた!
サーカス、回転木馬、タイムマシン、神隠しと連想するブラッドベリの不条理を
血を滴らせ歯ごたえを悦こびながら胃袋へと流し込め、すべての大人子供たちよ
44 光
三角形の月を胃の腑に納める
深夜の公園を歩く自分の裏側が見えてくる
彼はの雨は隠れた月の光である
45 光
夜と朝の切断の病歴は永い
朝の叙情は湯気を、夜の叙情は霧を求め
中断の温度差が主人の心拍を止める
46 光
口を衝いた別れ際の言葉が妙に批評じみていたので
戸惑った女の顔がかえって思い出されるものになってしまう
議論が残っては、別れにならないじゃないかこのモダンボーイ奴
47 冬
いろもはるもおくびにもださずにきはめてじむてきにすますせひしょく
いつからこんなにてれふみのやふになってしまったのかかんがへるあき
これもあれもきっとでひえぬえひにしっかりくみこまれていたんだろな
48 冬
永い旅のつれづれに人類のさいごについて考察するカリスマの吐血
ゆらめき燃える赤赤の祭壇に捧げて犠牲にわが身を削る歯痛
そして人はまた生まれ還える痛みにも勝る加虐的なオーラを背にして
49 冬
50年も100年も変わらぬ大陸都市のトロリーバスの架線に咲いたタンポポ
風に乗れ乗れ花粉の落下傘歴史を空から斜め読みしながら時間をゆっくり遡れ
一番何でも知っているのに何の知能も持たない花の遺伝子たちの愉しむ滅び
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